病院以外での治療の費用も交通事故の賠償の対象となりますか?
1 医療類似行為や温泉治療について
交通事故の損害賠償実務において、鍼灸や柔道整復などの東洋医療(医療類似行為)や温泉治療の費用が賠償の対象となるかについては、裁判例でも傾向がわかれるところです。
東洋医療や温泉治療が治療において果たす役割は否定できません。
しかし、交通事故賠償実務では、東洋医療や温泉治療は、西洋医療と異なり、診断や検査などによる客観的な把握ができず、治療の効果を科学的合理的に説明できない場合があることから、西洋医療と全く同一に扱うことはできないとされているのです。
2 医療類似行為の費用が賠償の対象となる要件
医療類似行為費用が賠償の対象となるためには、その施術について、①施術の必要性があること、②施術に有効性があること、③施術内容が合理的であること、④施術期間が相当であること、⑤施術費用が相当であること、が必要であるとされています。
そして、施術の必要性等が認められるためには、原則として、医療類似行為を受けることについて医師の指示を受けることが必要であるとされています。
3 被害者が医療類似行為を受けるための注意点
上述の見解から、交通事故の被害者が医療類似行為を受けるにあたっては、事故直後から医師の診断を受けて、医療類似行為を受ける部位(首・腰・背中など)が受傷している事実を証明することが必要であるといわれています。
また、整形外科等の医師から医療類似行為を受けることについて同意を得て、医師に指示管理のもとで医療類似行為を受けることが望ましいともいわれています。
このように、医療類似行為を受ける場合でも、医療類似行為と併せて、整形外科等の医療機関での治療を受けることが重要だと思われます。
4 温泉治療について
温泉治療についても、原則として医師による指示があるなど、治療上有効かつ必要な事実が認められる限り、賠償の対象となります。
なお、医師による指示は明示の指示が必要であり、明示の指示がない場合には、必要性の証明がないと判断される事案が多いようです。
5 まとめ
以上のとおり、一般的に、医療類似行為や温泉治療が果たす役割は大きいにもかかわらず、そのすべての費用が賠償の対象となるとは限りません。
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